小説「三位一体」その1

学振とにらめっこしていて疲れた。

息抜きに小説を書いてみることにした。タイトルは仮題。南極が舞台の群像劇のようなものになると思う。不定期で連載予定。いつまで続くかわからない。

下調べは一切していないから、事実と異なる記述が多く含まれていると思われる。ご容赦いただきたい。

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小説「三位一体」その1

ペンギンのペンローズは夢想家である。

彼の願いは、空を飛びたいとか上等な魚が食べたいといったありきたりのものにとどまらない。冬季オリンピックのスケルトンに南極代表として出てみたい(腹ばいで滑る技術にはいささかの自信がある)とか、日本の葛西臨海公園に住んでいるいとこを訪ねてつかの間の水族館暮らしを味わってみたいとか、とにかくやりたいことはいくらでも思いつくことができる。

ペンローズがいつもの場所でコーヒーを飲んでいると、気配を察知したアシカの足利さんがすぐに合流した。足利さんはすでにつがいになっており、双子の子どもを育てている。ペンローズは彼女の子どもたちの正確な年齢を把握していない。それほど突っ込んだ会話をする間柄ではないのだ。

ただ、少し前に「ようやく私の手助けなしでイワシが取れるようになった」と言っていたから2歳くらいなのだろう。アシカが一人前になるためにはいくつかのイニシエーションをくぐり抜けなければならない。「イワシ漁に一人で行く」というのはそのうちの最初期の段階にあたり、南極のアシカはだいたい2歳前後でそのステップを迎える。ペンローズもそれくらいのことは把握している。南極の一大勢力であるアシカの生活史は、彼らの近くに暮らしていれば自然と理解できるようになる。

「いい香りじゃない。どこの豆?」足利さんが尋ねた。